平均返答率96.5%を記録し、現場の半数以上が問い合わせの減少を実感。ユーザーニーズの可視化をホームページの改修にも役立てる、トヨタ産業技術記念館のDX推進
トヨタグループ発祥の地に残されていた大正時代の工場(旧豊田紡織本社工場)を貴重な産業遺産として保存・活用し、広く社会へ「研究と創造の精神」や「モノづくり」の大切さを伝えるために設立された『トヨタ産業技術記念館』。広大な敷地内には「繊維機械館」や「自動車館」があり、本物の機械の動態展示やオペレーターによる実演で産業と技術の移り変わりを紹介している。また、子どもたちが機械の原理を体験しながら楽しく学べる「テクノランド」や、科学・技術・産業関係の図書室、レストランなども備え、国内外から連日多くの人が訪れている。
魅力的な展示と充実した施設を誇る同館だが、職員らは「電話対応による業務の逼迫」という課題に直面していた。問い合わせの急激な増加が不定期で発生しており、現場への負担が増える場面が生じていたのだ。そこで、営業時間外の問い合わせ対応や、ユーザーの自己解決率を向上させるために、同館はサポートチャットボットを導入した。導入後は電話対応の負担を軽減しただけでなく、ユーザーニーズの可視化によるウェブサイト改修など、記念館全体のDXを推し進める契機にもなっている。ここでは、サポートチャットボット導入の背景から具体的な運営方法、今後の展望などについて伺っていく。
アドミニストレーショングループ
施設・トヨタ創業期試作工場 アシスタントマネージャー 吉永 司氏(左)
DX・広報 アシスタントマネージャー 増田 洋志氏(右)
課題
電話対応以外の業務もある中で、突発的な問い合わせの増加に対応するのは難しかった
追加料金なしで多言語対応できるサポートチャットボットはコスト面でも魅力的
トヨタ産業技術記念館の受入業務担当者は、4〜5名体制で団体予約の電話対応にあたっている。しかし、担当者のもとには団体予約だけでなく、一般客からのさまざまな問い合わせが寄せられていた。「団体予約を受け付けている担当のもとには、『テクノランドは空いていますか』といった一般のお客様からの問い合わせも来ている状況です」と吉永氏は教えてくれた。
受入担当者はVIP対応や最大300人規模の団体客への来館調整、来客時の会議室の準備なども担っており、電話対応だけをしているわけではない。その中で深刻だったのは、突発的に押し寄せる問い合わせの増加である。繁忙期である2025年のゴールデンウィーク期間には通常営業日以上に電話が殺到した。さらに、長期休暇などの繁忙期だけでなく、天候や不定期な休日によっても電話の件数は変動する。増田氏は「午後から雨が降った日には、屋根のある施設を探す来館者が増えると同時に、混雑状況の問い合わせが集中します。また、県民の日や市民の日といった学校が休みになる地域独自の祝日は予測が難しく、シフトを組んで人員を最適化することは困難でした」と振り返る。
電話対応の負担に加えて、同館は「営業時間外の問い合わせに対応できていない」という課題も抱えていた。職員による有人対応は開館時間内に限られるため、夜間などに翌日の行動予定を立てる来館予定者の疑問を解決しきれず、客足に影響を与えていた可能性は否定できない。「当館のホームページは400ページ以上にわたる構成になっており、サイト内検索がありません。そのため、お客様が調べたい情報にアクセスできていない可能性がありました」と増田氏は語る。
現場の負担を軽減し、24時間365日お客様の疑問に答える仕組みを作るため、トヨタ産業技術記念館はかねてから興味を持っていたチャットボットの導入に向けた検討を始めた。導入を検討する中で、同館がサポートチャットボットを選定した最大の理由は、多言語対応とコストのバランスだった。同館には、アメリカやヨーロッパ、アジアなど、世界中からトヨタを知るために観光客が訪れる。そのため、外国語での対応は必須条件であった。吉永氏は「サポートチャットボットは追加料金なしで、将来的に何カ国語でも対応できる点が最大の決め手でした」と選定の理由を教えてくれた。
解決策・運営方法
既存のQ&Aリストを活用し、導入時はスムーズにシナリオを構築できた
お客様が入力する表記やニーズに合わせた表示で、ユーザーの使いやすさも向上
導入過程においては、ユーザーローカルの丁寧なサポートがスムーズな運用開始を後押ししたという。「最初はチャットボットがどのような仕組みで動くのかイメージが湧いていませんでした。しかし、事前の打ち合わせで他社事例を交えて詳しく説明していただき、Q&Aのフォーマットがあれば簡単に導入できるとわかり、不安は払拭されました」と吉永氏は語る。
実際に、同館の受入担当者が長年蓄積してきたExcelのQ&Aリストをそのまま活用できたため、わずか3ヶ月弱という期間で実装を完了し、目標としていたお盆前のリリースを実現した。
その後も、吉永氏は都度管理画面を確認し、チャットボットの精度の向上に努めている。「私たちは、お客様に対して『わかりませんでした』と返すことは極力避けたいと考えています。そのため、何かしらの回答を提示できるように履歴を見てチューニングを行っています」と吉永氏は語ってくれた。
その際、類義語辞典やキーワード自動抽出機能が役立っているという。「回答できていなかったチャット履歴を見つけた場合、『キャリーバッグ』『スーツケース』『手荷物』といった単語を『コインロッカー』の案内に結びつけたり、『蒸気機関』というキーワードから『実演時間』の案内に誘導したりと、お客様の言葉に合わせたメンテナンスをしました。現在では、コインロッカーに関する質問はほぼ回答できています」と増田氏もその効果を実感している。
さらに、サポートチャットボットから得られた情報を用いて、UIの面でも工夫を凝らした。同館のチャットボットでは「クイック検索機能」を活用し、問い合わせのトップ3である「営業時間」「駐車場」「テクノランド」の項目を入力欄の上に配置している。
「クイック検索機能に表示する選択肢は3つに絞りました。クイック検索機能では、階層の深堀りをせず、また文字を打ち込まなくてもタップするだけで疑問が解決するため、お客様にとってもより利便性向上につながったはずです。」と吉永氏は手応えを感じている。
成果
日々のメンテナンスによって平均返答率は96.5%を記録し、現場の半数以上が問い合わせの減少を実感
問い合わせの負担軽減だけでなく、ニーズの発掘からホームページの改修にも役立てられる
日々のメンテナンスによって、トヨタ産業技術記念館では平均返答率96.5%という高い数字を記録している。その数字は現場にも変化をもたらしており、「以前は電話が鳴り続けていたお盆でしたが、サポートチャットボットを導入した直後は、『全然電話がかかってこない』と感じるほど静かな日がありました。駐車場や開館時間といった定型的な問い合わせは、お客様がチャットボットで自己解決できています」と増田氏は教えてくれた。受入業務担当者へのアンケートでも半数以上が「問い合わせが減り、負担が軽減された」と回答しており、現場の職場環境は確実に改善されている。
さらに、チャットボットに寄せられる質問内容をもとに、既存のホームページの改善点が見えてきたことも大きな成果だ。増田氏は「チャットボットが検索機能のない当館ホームページの『サイト内検索』の代わりを果たしてくれています。チャットボット管理画面の問い合わせ内容をみると、どのページからチャットボットを利用したのかが分かるようになったため、このデータをもとに、現在はホームページの改修を進めています。例えば、開館時間や駐車場のページに設置したチャットボットへの問い合わせ内容を分析することで、ユーザーが求める情報を把握し、ホームページの関連ページに詳細な情報を追記するなど、サイトの改善・更新にも活用することができました。」と語ってくれた。
トヨタの豊富な技術と知見が集まり、情報が網羅された見応えのあるホームページであるがゆえに、初めて訪れるお客様にとっては「自分の知りたい情報」にピンポイントでたどり着きにくい構造になっていた側面もあったという。チャットボットはお客様のニーズをダイレクトに知ることができるため、過不足ない情報を見やすく伝えられるホームページ作りへと意識が切り替わった。サポートチャットボットは単なる問い合わせ対応ツールを超え、同館のマーケティングとDXの第一歩を牽引しているのだ。
サポートチャットボットの導入により確かな成果を上げたトヨタ産業技術記念館は、さらなる利便性向上に向けて次なる展望を描いている。その筆頭が、外国人観光客に向けた多言語化の本格展開だ。「政府の誘致もあり、海外からのお客様は今後さらに増えていくでしょう。専門用語の正確な翻訳という課題をクリアし、近いうちに多言語対応へと広げていかなければならないと痛感しています。」と吉永氏は語ってくれた。
増田氏は「今後はサポートチャットボットの生成AI機能を活用して、ホームページの開館カレンダー情報から休館日などを検索できる仕組みも実装を検討しています。例えば、『明日は営業していますか?』という動的な質問も生成AIがホームページの情報から柔軟に返答できるようになると、より自然な会話形式の質問にも即座に回答できるようになるはずです」と、AIがもたらすさらなる効率化を思い描いている。
「サポートチャットボットの導入は、電話業務からデジタル化を進める当館のDXの第一歩です。お客様にさらなる感動を持ち帰っていただけるよう、改善を続けていきたいですね」と吉永氏は大きな期待を込めている。